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9冊目『知の教室 教養は最強の武器である』/佐藤優

表紙が怖い。「教養は最強の武器である」というサブタイトルにふさわしい「知」のメンチと言うべきか。

本書は佐藤優氏の過去の対談などを纏めたお得な1冊。教養をいかにして獲得し、そしてどのようにして使うか。ときには武器とも成りうる「教養」の身につけ方を教えてあげようという一冊。

しかし、僕の選書の嗅覚によると、「知の○○」と銘打たれた本にろくなものは無い。「知」を取り扱う書には2種類に分類できる。「うんちく型」と「視点型」だ。勝手に僕が分類した。

「うんちく型」は著者の知識をトピックに分けて紹介することが多い。つまり「この点はこういう点だよ」ということを紹介する。利点は、どこから読み始めても、ある程度話が分かるという点。欠点は、「で?」で終わってしまうようなことしか書いていない場合、そこで読む気がしなくなるという点だ。

「視点型」というのは考え方の鋳型、つまり根本的な「知的作業」のテンプレートや、「こんな風に考えると物事は面白くなる」という考え方そのものを教えてくれるものだ。利点は、知的作業そのものとは何か?物事を捉えるにはどのようにすればよいのか?ということを知ることができる点。欠点は、ろくでもない本に出会った後のモノの考え方に偏りができてしまうという点だ。

「うんちく型」で良い例がないか探したところ、「知の教室」を冠した書籍で、『苫米地英人の「知の教室」:本当の知性とは難しいことをわかりやすく説明することです!』というのがあった。これは「知とは○○」ということを掘り下げるのではなくて、「○○について苫米地英人が解説をする」という本だ。好きな人は好きだと思うけれど、自己啓発のかほりがするんですぐに閉じた。実は「うんちく型」にはこの手の本が多く、あまり当たりはない。

「視点型」の代表は『知的複眼思考』。これを読むとありとあらゆる常識を疑う目が養われる。一つのモノを複数の視点から考察する方法、問いの掘り下げ方、広げ方を教えてくれる。物事の考え方そのものを扱い、それを教えてくれる本である。視点型にはオススメできるものが多い。

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)

 

 

佐藤優『知の教室』は読み方でだいぶ変わる。

ぶっちゃけ、「うんちく型」だ。中身も対談や昔の書籍からの引用がほとんどで、「佐藤優マニア」なるものが存在するならば、なんだ!買わなくてもよかったやんけ!という内容だ。描き下ろしのものは少ない。

対談からの引用が多く、そのせいで文量が多い。479ページもある。個人的に、対談形式の本というのは、文字起こししたものを編集が後から手を加えて読みやすくしているようで、それがかえって著者の視点、メッセージを読みとりにくくさせている場合がある。だから、表面の文章だけ読み取るので終始するので、「うんちく型」になりやすい。あと、これは編集の腕だと思うけど、どうでもいいリアクション、ノイズがあったりするのも好みではない。いい本もあるけどね。

しかし、読み方を変えると、これは「佐藤優大全」となって、佐藤優とはどういう人か?どんな世界で教養を磨いてきたのか?教養をいかに武器として使ってきたのか?どんな思考回路を持っているのか?どうやって普段勉強しているのか?ということが掲載されている。「佐藤優学」(今僕が思いつきで勝手に作った)なる分野があるならば、良い研究材料になるだろう。一言で言ってしまうならば、「佐藤優学概論」のような本だ。

佐藤氏の社会問題の分析方法の核は「アナロジー」だ。類推、類比だ。これは博覧強記と評される人物が得意とする。一つの物事と別の物事との共通点を見つけて考察をしていく方法だ。佐藤氏は社会問題を分析するとき、過去文献・過去情報を参照し、それらを背景として捉え、紐付けることで考察を深め広げることが得意な人である。本書はその手本になるかもしれない。

面白い箇所もある。が、全てが正しいと思わずに、佐藤優というフィルターを通して社会問題を分析するとこういう意見になるという、論理の道筋をたどってみるといい。すると、「うんちく型」ながらも若干の「視点型」的な使い方ができる。

Amazonレビューでは度々手痛い指摘を受けている佐藤氏の著作だが、大体は歴史に対してあまり関心が無い人物だったり、揚げ足取りをしたりといった暇な人が付けているんだろうな……という内容なので、気にしないようにしている。

読書というのは悪い部分を敢えて削ぎ落として読んだり、行間を読んで情報を加えることもできるのが良いところだと考えている。「知的」になりたければ、佐藤氏の知的だと思う部分、鋭いなと思った分析部分に注目して読み進めれば良い。そういう意味で本書は、佐藤本のいい所と悪いところの詰め合わせのお得セットである。

個人的にはホリエモンとの対談以外は楽しめた。