文庫-LOG

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17冊目 『話し方入門』/D.カーネギー

カーネギー話し方入門 文庫版

カーネギー話し方入門 文庫版

 

自己啓発系の本は扱わないようにしようとしてたけど、何でもやったれ精神でとにかく更新したいと思ったんですよ。何かいいネタがないかな~と思って本棚を漁っていたら、この『話し方入門』を見つけた。プレジデントとか、CEOとか、代表取締役社長の座右の書とかに良くなっているやつだ。

この本は主にスピーチ、つまり人前でしゃべるときのコツを、デール・カーネギーさんという教師・作家である人から教わることができるってんだから凄い。第1章「勇気と自信を養う」に始まり、第12章「言葉遣いを改善する」で終わっている。

カーネギーと聴いて誰?という人は自己啓発界隈に染まっていない善良な市民であると思う。

先程もチラと書いたけれど、教師であり作家だ。で、主に作家業で活躍した人だ。アメリカのミーズリー州生まれの貧しい家庭に生まれながらも、人材育成プログラムの開発とセミナーで大成功したアメリカンドリームの権化だ。『人を動かす』や『道は開ける』という著作でおなじみ。下の表紙なら、本屋でずっと見かけるという人も多いだろう。

人を動かす 文庫版

人を動かす 文庫版

 
道は開ける 文庫版

道は開ける 文庫版

 

良い点はとにかく読んだ人をその気にさせてくれる。もう第1章だけで売っても売れるのではないかというくらい、元気になれるところだ。僕が好きな部分はここ。

「恐れは、無知と不安から生まれる」とロビンソン教授が『The Mind in the Makinge(精神の発達過程)』の中で述べています。言い方を変えれば、恐れは自信の欠如の結果ということです。

 では、その自信の欠如の原因は何なのか?それは自分の本当の力を知らない、ということから来ています。そして本当の力を知らないのは、経験不足のためなのです。成功した経験を積んだ暁には、あなたの恐れは消え失せているはずです。七月のまばゆい太陽のもと、夜霧が溶けてしまうように。(P.25)

なんとも詩的ではありませんか。「いいから経験を積め、練習をしろ」という内容の章なんですけど、辛い練習のことなんかへっちゃらだいと思えるような筆致は見事としか言いようがない。もう話し方マスターした気分になれる。

悪い点は、基本的にこのカーネギーのプログラムや論拠となっているのが、カーネギー個人の体験や、カーネギーのプログラムに参加した人の成功例に終始しているところ。つまりは科学的再現性が担保されていないものであるということ。

「これさえやれば間違いなく話し方、スピーチ、交渉がうまくなりますよ」なーんてことはない。これはどの自己啓発本にも共通するところなので、わざわざ書く必要ないかも入れないけどね。

こういう本と向き合うときには話半分、自分の生活に応用ができないかなあと思いながら、ぼーっと読むのが一番。一時期、自己啓発本を毛嫌いする時期があったけれども、今はそれを乗り越え、「へーなるほど」という風に読めば、毒にも薬にもならないとされる自己啓発分野から、多かれ少なかれヒントをもらうことができる。

さて、悪口ばかりじゃいけないから、もう1ヶ所僕がとてもおもしろいなと思ったところを紹介する。というか、肝だ。ネタバレ注意。この記事を読んだ人は、わざわざリンクを踏んでポチらずとも、カーネギーの話し方入門のコアを知ることができると言っても過言……だわ。それは過言だけど、こちらの一文。

聴衆にあなたが訓練を受けたことがあるとは夢にも思わせないほど、徹底して自然に話すことを私は願っているのです。良い窓というのはそれ自体は人の注意を惹かないのです。ただ光を入れるだけです。良い話し手とはそのようなものです。非常に自然なので、聴衆はその話し方には注意を払わず、話の内容にだけ関心を示すのです。

ということで、文庫-LOGでも自然に、語りかけるように、まるでライティングに関する書籍を読んだり、ライティングのセミナーなんかにいってないぜ(実際にセミナーにはいってない)というような語り口で記事を書いてみたけど、どうだったかな。

格好つける必要はないから、自然に話せる努力をする。根気良く続ける。そういうシンプルなことを、カーネギーはこの本で伝えているのだと感じましたね。

不特定多数の前で意見を表明する人、つまりプレジデントやらCEOやら代表取締役はもちろん、我々ブロガーにも役に立つ本だ。自然な態度で文章を書けば、みんなあなたが伝えたいことに、意識を集中させてくれるのだから。