文庫-LOG

世界観を持ち運べる「文庫」を専門に紹介するブックレビューサイト

20冊目『知的トレーニングの技術』/花村 太郎

知的トレーニングの技術〔完全独習版〕 (ちくま学芸文庫)

知的トレーニングの技術〔完全独習版〕 (ちくま学芸文庫)

 

絶版期間が長かったが、2015年にちくま学芸文庫入りを増補版として果たし、入手が容易になった本。

僕は『アイデア大全』『問題解決大全』の読書猿さんが、ブログで長年紹介し続けたことによって復刊したのではないかという憶測を立てている。というのも、読書猿さんのブログは本書を出発点としたと言っても過言ではなく、彼は自身のブログを私家版知的トレーニングの技術であるとまで語っているので、彼のファンであれば、手元においておくのはマストだ。

本書は簡単に言うと、独学の際の手すりとなる本である。今流行の「科学的に効率の良い学習方法」を紹介するのではない。過去の叡智を生み出した知の巨人たちは、どのようにしてその知を獲得していったか、そしてどのように知を生み出したかに焦点を当て、読者が実践できるようにまとめたものだ。

本書は準備編と実践編に分かれる。準備編では基礎トレーニングで8章、実践編では実際に知的生産を行うためのハウツーが11章という分配で書かれる。

基礎トレーニングでは、立志術、青春病克服術、ヤル気術、気分管理術、発問・発送トレーニング法、〔基礎知力〕測定法、知的交流術、知の空間術が取り上げられている。

タイトルと概要から堅苦しい本であるように思われるが、目次を読んでみると意外とライトな本であるかもしれないという想像が働く。その想像はそのとおりで、実際に本文を読でみると、実に軽快な筆致とわかりやすい日本語で、独学に必要な知識を授けてくれる。

中にはこんなの真似できるわけねえだろ!という偉人も登場する。

例えば、南方熊楠などがそれだ。「〔基礎知力〕測定法」の語学について書かれているところで登場する。彼が行った語学学習法は、「対訳本の通読」であるが、これで南方は半ヶ月で1つの言語をマスターしたとされている。

さてどこまで本当なのか疑わしい。しかし、こういうエピソードは本気で信じてあげることで自分のヤル気がみなぎる人もいるだろう。ほぼ事実として書かれているところに引っかかりを覚えないでもないけれど、知の巨人のとんでもエピソードを伝記を読むような感覚で捉えることができるのは、読んでいて普通に面白い。

実践編では研究職を目指したり、職業的に分析を行わなければならない人には宝の山かもしれない。

知的生産過程のモデル、蒐集術、探索術、知的パッケージ術、分析術、読書術、執筆術、思考の空間術、知的生産のための思考術、科学批判の思考術、思想術の計11章。読書術や執筆術は、僕のようなアマチュアブロガーなどにも即効性がある章で、何かしらのアウトプットを迫られている、あるいは自分に課している人は、この実践編をものにすることができれば、知的生産、知的能力のアップが期待できる。読書猿氏お得意のマトリックスも、「分析術」でその作り方が示されているので、興味がある人はそのあたりから読みすすめるのもいいかもしれない。

また、一つ一つの章が独立気味に書かれているので、自分の気になった箇所から読めるという点もおすすめポイント。文庫なので持ち運びも便利だから、電車の一駅区間でペロリと1節なめるように読んでもよろしいかと。この記事のために読み直して、僕も大いにヤル気を回復した次第。一家に一冊!