文庫-LOG

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12冊目『ほんとうに頭がよくなる「速読脳」のつくり方』/苫米地英人

ほんとうに頭がよくなる「速読脳」のつくり方 (PHP文庫)

ほんとうに頭がよくなる「速読脳」のつくり方 (PHP文庫)

 

認知科学者の苫米地英人が本格的に自己啓発に乗り出してから5~6年くらい経った後の本なので、バリバリの自己啓発本。この本を買った当時の僕は速読の世界にハマってしまい、いろんな読書法の本を買い漁っていた。その中でも、この著者の本にしては珍しく、参考になったといえば参考になった本だ。タイトル超胡散臭いのに、何故参考になったかと言うと、「速読不要論」を速読の本の中で展開していて、それがまた的を射るものであるので、面白い。文庫-LOGに残しておこうと思う。

著者の言い分では、アメリカの大学院では1日50冊ほど本を読まなければやっていけないらしい。本当かどうか怪しい。まあ本当だったとして、それくらい本を読まないとやってられない仕事に就いているなら速読は必要だけど、別にそうじゃなかったら速読なんて要らないんじゃねーのと著者は言う。やたら著者の過去の自慢みたいな話が続くが、我慢して読んでいくと、「読書はゆっくり味わって読むのが良い」というのが、著者の意見であることがわかる。

そもそも、日本の出版物はどれくらい新しく発行されているのか。統計局によると、平成29年度は75,412冊ほど出ている。文芸書、学習参考書、児童書等も含め全ての冊数だ。これを1週間にすると、約1,450冊となる。1日207冊もの新しい書籍が発行されている。これを、全て読みきろうという人はどれだけいるのか。速読が不要である理由はそこで、「冊数に拘っても全く意味が無い」と著者は言う。

読書で得られるものは何か。それは著者の視点であり、それを獲得することができれば、スミスなら、マルクスなら、ケインズなら……いまの経済をどのように分析するのか?夏目漱石福沢諭吉が今の小説を読んだらなんて思うだろうか?という想像が可能になる。著者が挙げる読書の最大の功利はそこにあるのだという。

また、速読ができるとして、なぜ可能なのか?ということに関しても、現実的なことを書いている。曰く、「持っている知識の量が全てである。」ということだ。そりゃそうだ。

著者はクリス・アンダーソンの『FREE』を5分で読んだエピソードを書いているが、それはもともと『FREE』で扱っていた分野の知識が大量にあったから可能であったわけで、全く知識が無ければ1冊5分なんという速読は不可能であるという。(ということでは元も子もないので、著者流の速読術を紹介する本ではあるのだが、それは実際に本書を読んでみてほしい。ここで書くとあとで恥ずかしいくらい、人間には不可能である。)

そもそも人間は、知っていることは認識できても、全く知らないことは、早く読んでも遅く読んでも、何冊読んでも何度読んでも理解できないし、知識には定着しないと主張する。人間が新しい知識を獲得するには、既存の知識を抽象化し、連結させることで可能となるらしい。

既存の速読術「キーワードリーディング」「フォトリーディング」などは本をどれだけ読まないようにすれば効率よく情報を拾えるのか?という技術であって、著者が主張する「著者の視点の獲得」を目的とした読書は達成されない。そのため、こうしたテクニックは、読むべき本と読まない本を仕分けるのに使うに留めておき、本当に読むべき本と出会ったと感じたならば、速読なんて使わずにじっくり味わって読むことを勧めている。

あと、これは著者の意見でもあり、僕の経験則でもあるが、本は読む経験が多ければ多いほど早く読めるようになるので、普通に読んでいても、次第に勝手に早くなるんだから、焦らずに読書を楽しめばいいよね。

という、しっちゃかめっちゃかな内容の本なのだが、一応速読派から速読懐疑派になった僕としては、新聞広告やネットの縦長ランディングページにあるような速読セミナーにウン十万使おうとするより、その金で本を買って、読んでいれば、勝手に早くなるので、そっちのほうが絶対にいいと思う。

え?この本の金はどうしたかって?

なんか、超安く手に入ったんだよね。Amazonで。

この世には5,000円するクソ本とか平気である。文庫には、そういうものが少ない。というかそもそも2,000円超えるものが少ない。文庫のメリットの一つとして、ダメそうなタイトルの本を安価で試せるという点があります。かさばらないし、資源回収の時やブックオフに持っていくときに便利。やっぱ文庫ってすごいや。

速読関係なくなっちゃったけど、のめりすぎて良いこと無いから。それだけは伝えたかった。。。