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1冊目『本を読む本』/J・モーティマー・アドラー,V・チャールズ・ドーレン

本を読む本 (講談社学術文庫)

本を読む本 (講談社学術文庫)

 

「いつもどんな風に本を読んでるの?」と聴かれることがあります。たまに。

この質問少し困ると思うんです。感覚的なものなので、技法的なことを知りたそうな人に対しても、「普通に読む」くらいしか返答のしようが無いですよね。

ちなみに僕は、「自己満足で、適当に」と答えることが多いです。ブックレビューサイトの管理人として、しかもお前、第1回目の貴重なエントリの内容としてどうなんだと言われると、うーん。でも格好つけて息苦しくなる方が嫌ですし……。

僕にとって、「読書」は趣味です。読んでいる本の内容がどんなものであっても、「趣味」の範疇を超えません。趣味というのは、要するに自己満足の世界であります。自分勝手で気ままで気楽です。ですから、「本をどんな風に読んでいるか」と聴かれれば、「自己満足で、適当に」と素直に答えざるを得ません。ごめんなさいね。

ただし、今自分が読んでいる「本が扱うテーマ」を、少し丁寧に、あるいはもう少し深く読んでみようとする時の手本とするのが、この『本を読む本』です。

「読書術」のド定番です。真面目に読書をしたい、これから大学に入って勉強したいという人にとって、多くのものを教えてくれます。今ある読書法は、おそらくこの本のテクニックの焼き増し、あるいはアレンジといっても過言ではないでしょう。速読についても載っています。まさしく読書法の古典です。

この本で一番多く紙幅を割いているのは、第三部「分析読書」です。本書の半分を使っています。所謂「精読」だとか、「血肉となるような読書」をするにはどうすれば良いかということが事細かに書かれています。

これを実践するとなると相当な労力がかかる。ですから、選書についてもうるさいです。「良い本を選べ」ということをしきりに指摘してくるので、それが説教臭くて読むのをやめてしまった人もいるかもしれません。でもせっかく時間かけるんだったら、なるべく良い本と向き合いたいじゃないですか。

この本の第一の効能は「精読」と呼ばれるものの一つの型を知ることができるという点です。「本格的に勉強したいことができたけど、どんな風に本を読んだらよいか分からない」という人にとっては良い薬になるかもしれません。

そうだ。

紙幅はそれほど割かれていませんが、第四部の「シントピカル読書」については、必ず目を通すようにしなければなりません。

これが、この本を読破した人に与えられる第二の効能というより、恩恵であり、同時に「読書地獄」へと堕ろされるような、複雑な気持ちにさせてくれるものでもあります。気の遠くなる知の構築術の世界の一端を覗き見ができる感じでしょうか。

シントピカル読書」という概念は、著者のアドラーの業績である『Great Books of the Western World』の存在を知っておくと理解が早まるかと思われます。百科事典でお馴染みの、ブリタニカが出しています。

これは読みつがれるべき書籍(Great Books)を集めた、日本で言う所の中央公論社が出版していた『世界の名著シリーズ』のようなもの(というと語弊があるかもしれませんが)です。で、このシリーズの第1巻と第2巻が索引なのですが、編纂者達はこれを「シントピコン」と名付けました。

第1巻と第2巻は、シントピコン索引で構成されています。シントピコン索引を利用すると、特定の主題、たとえば勇気や民主主義といったことが、膨大な全集のどこで論じられているのかを知ることができます。歴史に名を残した偉人たちが、その主題についてどのように論じ、それぞれの主張にはどのような違いがあるのかを体系的に学ぶことができる、画期的な索引です。

引用:ブリタニカ・ジャパン|Great Books of the Western World

シントピカル読書」とはつまり、このシントピコンを作成するかのごとく、各々の持つ主題について、文献をリストアップし、複数の書籍を同時並行的に読み合わせ、意見を対峙させ、折り合いをつけ、論点を定め、改めて主題についての考察を深めるという読書であるわけです。

この著者アドラーと『Great Books of the Westetn Wolrd』との関係性については、Wikipediaや読書猿さんのブログエントリで、より詳しく知ることができます。

readingmonkey.blog.fc2.com

僕は正直言っちゃうと「シントピカル読書」なんてしたことないので、僕がこの本を紹介する資格があるかと言われると何も言えないのですが……実は、最近「比較宗教学」について、本腰を入れて勉強してみるかという気分になったときに、この本を再読しました。

この本で紹介されているのは、知識を血肉にしたいという場合、ここまでやって身につかないなら、その本の方が悪そうだなっていうくらいに本と向き合う方法論です。信頼していいと思います。

ただ、こうした労力の大きな読み方が唯一絶対に正しいとは思っていません。気楽に読書してるほうが楽しいしね。今回この本を紹介したのは、この本に影響されて読書家を志す人も少なくないだろうなということを、再読してあらためて痛感したからなのでした。

今主流な勉強法は、コスパ重視の試験対策型勉強法ですが、それとは方向性が違います。

体系的な知識を得たい!という知の勇者達に送りたい一冊です。